消費税の基礎知識
起業時に知っておくべき消費税の仕組みと、免税事業者・課税事業者の違い、インボイス制度の影響について解説します。
消費税の基本的な仕組み
消費税とは
商品やサービスの消費に対して課税される税金で、最終的には消費者が負担します。事業者は消費者から預かった消費税を国に納付する義務があります。
消費税の流れ
消費者
商品購入時に消費税を支払い
↓
事業者
消費税を預かり、売上から仕入の消費税を差し引いて納付
↓
国・地方自治体
消費税収として使用
現在の消費税率
区分 | 税率 | 内訳 | 対象 |
---|---|---|---|
標準税率 | 10% | 国税7.8% + 地方税2.2% | 一般商品・サービス |
軽減税率 | 8% | 国税6.24% + 地方税1.76% | 食料品・新聞 |
免税事業者と課税事業者
免税事業者
条件
- 基準期間の課税売上高が1,000万円以下
- 特定期間の課税売上高が1,000万円以下
- 課税事業者選択届出書を提出していない
特徴
- 消費税の納税義務なし
- 消費税を受け取ってもそのまま収入
- 消費税申告書の提出不要
- インボイスを発行できない
課税事業者
条件
- 基準期間の課税売上高が1,000万円超
- 特定期間の課税売上高が1,000万円超
- 課税事業者選択届出書を提出
- 資本金1,000万円以上の法人
特徴
- 消費税の納税義務あり
- 年1回または4回の申告・納付
- インボイスを発行可能
- 仕入税額控除を受けられる
納税義務判定の基準
基準期間による判定
基準期間とは
- 個人事業者:前々年(2年前)
- 法人:前々事業年度
個人事業者の例(2024年の場合)
2022年
基準期間
この年の課税売上高が判定基準
2023年
-
判定には影響しない
2024年
当年
2022年の売上が1,000万円超なら課税事業者
特定期間による判定
特定期間とは
- 個人事業者:前年1月1日〜6月30日
- 法人:前事業年度開始日から6ヶ月間
課税事業者になる条件
特定期間の課税売上高と給与等支払額が両方とも1,000万円を超える場合
項目 | 判定基準 | 備考 |
---|---|---|
課税売上高 | 1,000万円超 | 税抜きで計算 |
給与等支払額 | 1,000万円超 | 役員報酬・従業員給与の合計 |
起業初年度・2年目の扱い
起業1年目
原則免税事業者
- 基準期間がないため原則として免税
- ただし、資本金1,000万円以上の法人は課税事業者
- 課税事業者選択届出書を提出すれば課税事業者
例外的に課税事業者になる場合
- 設備投資で消費税還付を受けたい
- 取引先がインボイス発行を求める
起業2年目
原則免税事業者
- 基準期間(前々年)がないため原則として免税
- ただし、1年目の上半期の売上・給与が1,000万円超なら課税事業者
2年目の判定例
1年目(4月開業)の場合:
- 特定期間:翌年1月〜6月
- この期間の売上・給与が両方1,000万円超なら2年目も課税事業者
起業3年目以降
基準期間で判定
- 前々年(基準期間)の課税売上高で判定
- 1,000万円超なら課税事業者
- 1,000万円以下でも特定期間の条件で課税事業者の場合あり
消費税の計算方法
基本的な計算式
納付税額
=
売上の消費税
-
仕入の消費税
計算例
売上(税抜)
1,000万円
仕入(税抜)
600万円
売上の消費税
1,000万円 × 10% = 100万円
仕入の消費税
600万円 × 10% = 60万円
納付税額
100万円 - 60万円 = 40万円
計算方法の選択
原則課税(本則課税)
- 実際の売上・仕入の消費税で計算
- 課税売上高5,000万円超は原則課税のみ
- 設備投資があるときは有利
簡易課税
- 課税売上高5,000万円以下で選択可能
- 業種別のみなし仕入率で計算
- 事前の届出が必要
みなし仕入率
事業区分 | みなし仕入率 | 業種例 |
---|---|---|
第1種事業 | 90% | 卸売業 |
第2種事業 | 80% | 小売業 |
第3種事業 | 70% | 製造業 |
第4種事業 | 60% | 飲食店業 |
第5種事業 | 50% | サービス業 |
第6種事業 | 40% | 不動産業 |
インボイス制度の影響
インボイス制度とは
2023年10月から開始された適格請求書等保存方式のことで、消費税の仕入税額控除を受けるために適格請求書(インボイス)の保存が必要になる制度です。
起業への影響
売り手(インボイス発行側)
適格請求書発行事業者の場合
- インボイスを発行できる
- 買い手は仕入税額控除を受けられる
- 取引継続の可能性が高い
免税事業者の場合
- インボイスを発行できない
- 買い手が仕入税額控除を受けられない
- 取引条件見直しの可能性
買い手(インボイス受領側)
適格請求書がある場合
- 仕入税額控除を満額受けられる
- 従来通りの税額計算
適格請求書がない場合
- 仕入税額控除を受けられない
- 実質的な税負担増加
適格請求書発行事業者登録
1
登録申請
適格請求書発行事業者登録申請書をe-Taxまたは郵送で提出
2
登録通知
税務署から登録番号の通知(約1ヶ月後)
3
登録の効力発生
登録日からインボイス発行が可能
注意点
- 免税事業者が登録すると課税事業者になる
- 登録は任意だが、取引先の要望で実質必要な場合が多い
- 登録後は消費税申告・納付義務が発生
起業時の消費税対応方針
判断フローチャート
起業準備
↓
取引先は法人が中心?
はい
インボイス登録を検討
仕入税額控除のニーズが高い
取引継続のため登録が有利
いいえ
免税事業者を維持
消費者相手なら影響少
売上1,000万円超まで様子見
業種別の対応パターン
BtoB サービス業
📋 インボイス登録推奨
- 法人取引先が仕入税額控除を重視
- 取引条件に影響する可能性が高い
- 早期登録で競合優位性確保
小売・飲食業
⏳ 状況を見て判断
- 一般消費者相手なら影響限定的
- 売上規模と取引先の状況次第
- 1,000万円近くなったら検討
製造・卸売業
✅ 早期登録を検討
- 取引先の多くが法人
- 仕入税額控除のニーズが高い
- 取引継続に直結する可能性
フリーランス
🤔 取引先次第
- 依頼元企業の方針を確認
- 継続取引なら登録が安全
- 個人向けサービスなら不要