個人事業主と法人の税金・税制の違い
個人事業主と法人では税金の仕組みが大きく異なります。それぞれの特徴を理解して、最適な起業形態を選択しましょう。
税制の基本的な違い
個人事業主と法人では適用される税制が根本的に異なります。
税制比較概要
個人事業主(所得税制)
- 超過累進税率:5%〜45%
- 申告方式:事業所得として申告
- 控除:給与所得控除なし
- 特別控除:青色申告特別控除あり
- 住民税:一律10%
法人企業(法人税制)
- 比例税率:約22%〜30%
- 申告方式:法人税・地方税を納税
- 控除:役員報酬は給与所得控除対象
- 特別控除:欠損金の繰越控除あり
- 均等割:赤字でも最低税額あり
税率の詳細比較
所得水準によって税負担が大きく変わります。具体的な税率を確認しましょう。
個人事業主の所得税率(超過累進課税)
課税所得金額 | 所得税率 | 控除額 | 住民税 | 合計実効税率 |
---|---|---|---|---|
195万円以下 | 5% | 0円 | 10% | 15% |
195万円超〜330万円 | 10% | 97,500円 | 10% | 20% |
330万円超〜695万円 | 20% | 427,500円 | 10% | 30% |
695万円超〜900万円 | 23% | 636,000円 | 10% | 33% |
900万円超〜1,800万円 | 33% | 1,536,000円 | 10% | 43% |
法人の実効税率
所得金額 | 法人税率 | 地方税等 | 実効税率 | 備考 |
---|---|---|---|---|
年800万円以下 | 15% | 約7% | 約22% | 中小法人の軽減税率 |
年800万円超 | 23.2% | 約7% | 約30% | 標準税率 |
赤字の場合 | 0% | 均等割のみ | 7万円〜 | 所得に関係なく最低額 |
控除・経費の違い
個人事業主と法人では利用できる控除や経費の範囲が異なります。
個人事業主の控除・経費
青色申告特別控除
- 65万円控除:複式簿記 + 電子申告
- 55万円控除:複式簿記のみ
- 10万円控除:簡易簿記
主な経費項目
- 事業用品費・消耗品費
- 家事按分による家賃・光熱費
- 交通費・旅費
- 通信費・広告費
- 専門書籍・研修費
法人の控除・経費
役員報酬の給与所得控除
- 給与所得控除:年収に応じて最大195万円
- 基礎控除:48万円
- 社会保険料控除:全額控除
法人特有の経費
- 役員報酬・給与
- 法定福利費・退職金
- 接待交際費(一部制限あり)
- 生命保険料
- 出張旅費(日当支給可)
欠損金・赤字の扱い
事業が赤字になった場合の税務上の取り扱いが異なります。
個人事業主の場合
純損失の繰越控除
- 青色申告:3年間繰越可能
- 白色申告:繰越不可
損益通算
事業所得の赤字を給与所得等と相殺可能
法人の場合
欠損金の繰越控除
- 繰越期間:最大10年間
- 控除限度:所得の50%まで(中小法人は100%)
繰戻し還付
中小法人は前年度の法人税の還付請求可能
社会保険の違い
社会保険制度も個人事業主と法人で大きく異なります。
社会保険制度比較
項目 | 個人事業主 | 法人(役員) |
---|---|---|
健康保険 | 国民健康保険 | 協会けんぽ等 |
年金 | 国民年金(第1号) | 厚生年金 |
雇用保険 | 加入不可 | 原則加入不可(役員は対象外) |
労災保険 | 特別加入制度あり | 特別加入制度あり |
保険料負担 | 全額自己負担 | 会社と折半 |
収入別・税負担シミュレーション
具体的な数値で税負担を比較してみましょう。
年収500万円の場合の比較
個人事業主(青色申告65万円控除)
年収
5,000,000円
青色申告特別控除
-650,000円
基礎控除
-480,000円
社会保険料控除
-700,000円
課税所得
3,170,000円
所得税
206,000円
住民税
317,000円
国民健康保険
400,000円
国民年金
200,000円
税・社会保険料合計
1,123,000円
法人(役員報酬400万円 + 内部留保100万円)
個人(役員報酬)
役員報酬
4,000,000円
給与所得控除
-1,240,000円
基礎控除
-480,000円
社会保険料控除
-570,000円
所得税
142,000円
住民税
171,000円
社会保険料
570,000円
法人
法人利益
1,000,000円
法人税等
220,000円
社会保険料(会社負担)
570,000円
税・社会保険料合計
1,673,000円
法人化のタイミング
所得水準や事業の状況に応じた最適な法人化タイミングを検討しましょう。
一般的な法人化の目安
年所得 300-500万円
個人事業が有利
税率が低く、手続きも簡単
年所得 500-800万円
要検討
状況によって最適解が変わる
年所得 800万円超
法人化を検討
税率メリットが大きい
法人化を検討する際の要因
税務面
- 所得水準と税率
- 欠損金繰越の必要性
- 退職金制度の活用
- 消費税の取り扱い
事業面
- 対外的な信用力
- 従業員の採用予定
- 資金調達の必要性
- 事業承継の計画
コスト面
- 設立・維持費用
- 税理士報酬
- 社会保険料負担
- 事務負担の増加
まとめ
個人事業主と法人の税制の違いを理解し、事業の状況に応じて最適な選択をしましょう。
個人事業主のメリット
- 設立手続きが簡単
- 低所得時の税率が有利
- 損益通算が可能
- 事務負担が軽い
法人のメリット
- 高所得時の税率が有利
- 給与所得控除が利用可能
- 欠損金繰越期間が長い
- 対外的信用力が高い
重要な注意点
- 税制は法改正により変更される場合があります。最新情報を確認してください
- 個別の状況によって最適解は異なります。専門家に相談することをおすすめします
- 法人化には設立費用や維持費用がかかることも考慮しましょう
- 社会保険の負担も含めた総合的な判断が重要です