市場調査・ターゲット設定

効果的なマーケティング戦略の基盤となる市場調査とターゲット設定の方法を詳しく解説します。顧客セグメント分析、競合調査、ペルソナ設定など実践的な手法とツールを紹介し、事業成功につなげる顧客理解を深める方法について説明します。

市場調査の重要性

なぜ市場調査が必要なのか

  • リスク軽減:需要のない商品・サービスへの投資回避
  • 機会発見:未開拓市場や顧客ニーズの特定
  • 競争優位:競合他社との差別化ポイント明確化
  • 効率的投資:限られた資源の最適配分
  • 戦略立案:データに基づく意思決定
  • 顧客理解:ターゲット顧客の深い理解

市場調査を怠った場合のリスク

失敗事例

  • 商品が売れない:需要予測の誤り
  • 価格設定の失敗:市場価格との大きな乖離
  • 競合に敗北:競合分析不足による戦略ミス
  • マーケティング費用の無駄:ターゲット設定の誤り
  • 事業撤退:市場理解不足による事業継続困難

市場調査の種類と手法

一次調査(プライマリーリサーチ)

アンケート調査

実施方法
手法 コスト 回答率 適用場面
Webアンケート 5-15% 大規模調査、定量分析
郵送アンケート 10-30% 高齢層、地域限定調査
電話アンケート 20-40% 緊急調査、短時間調査
街頭アンケート 50-80% 立地調査、即座のフィードバック
質問設計のポイント
  • 明確な目的:何を知りたいのかを明確に
  • 簡潔な質問:理解しやすい表現
  • 中立的な表現:誘導的な質問の回避
  • 適切な回答選択肢:漏れのない選択肢設定
  • 論理的な順序:回答しやすい質問順序

インタビュー調査

インタビューの種類
  • 構造化インタビュー:事前に質問項目を決定
  • 半構造化インタビュー:大枠を決めて柔軟に展開
  • 非構造化インタビュー:自由度の高い対話形式
  • グループインタビュー:複数人での議論形式
効果的なインタビューのコツ
  • 相手がリラックスできる環境づくり
  • オープンクエスチョンの活用
  • 「なぜ」を掘り下げる質問
  • 相手の言葉を繰り返し確認
  • 録音・メモ取りの事前了承

二次調査(セカンダリーリサーチ)

政府統計・公的データ

主要な統計データソース
データソース 提供機関 主な内容 更新頻度
国勢調査 総務省 人口・世帯・就業状況 5年
家計調査 総務省 家計収支・消費動向 月次
商業統計 経済産業省 小売業・卸売業の実態 3年
工業統計 経済産業省 製造業の実態 年次

業界レポート・調査会社データ

主要な調査会社
  • 矢野経済研究所:業界市場規模・動向分析
  • 富士経済:市場調査・予測レポート
  • IDC Japan:IT市場専門調査
  • 電通:広告・メディア関連調査
  • 日本能率協会:経営・マーケティング調査
無料で入手可能なレポート
  • 業界団体の発行レポート
  • 政府機関の白書・報告書
  • 大手企業のIR資料・決算説明資料
  • 調査会社の概要版・サマリー

競合分析

競合他社の特定

競合の分類

直接競合
  • 同一商品・サービス:全く同じ商品・サービスを提供
  • 同一ターゲット:同じ顧客層をターゲット
  • 同一価格帯:類似の価格設定
  • 同一販売チャネル:同じ販売経路
間接競合
  • 代替商品・サービス:異なる手段で同じニーズを満たす
  • 部分的重複:一部の機能・価値が重複
  • 予算の奪い合い:同じ予算を争う関係
潜在競合
  • 新規参入予定:参入を検討している企業
  • 業界外からの参入:異業種からの新規参入
  • 技術革新による新規競合:新技術による競合出現

競合分析の方法

Webサイト・SNS分析

分析項目
  • 商品・サービス内容:機能、価格、特徴
  • ターゲット層:想定顧客、メッセージング
  • マーケティング手法:SEO、広告、SNS戦略
  • ブランディング:ロゴ、カラー、コンセプト
  • ユーザビリティ:サイト構造、使いやすさ
分析ツール
ツール名 料金 主な機能
SimilarWeb 一部無料 トラフィック分析、流入源分析
Ahrf 有料 SEO分析、被リンク分析
SEMrush 有料 キーワード分析、広告分析
Wayback Machine 無料 過去のサイト履歴確認

店舗・実地調査

調査項目
  • 立地・アクセス:場所、駐車場、交通手段
  • 店舗レイアウト:陳列、導線、雰囲気
  • 接客・サービス:スタッフ対応、サービス品質
  • 価格・商品:価格設定、品揃え、品質
  • 顧客層:来店客の属性、行動パターン
  • 混雑状況:時間帯別の来客数

ターゲット設定

セグメンテーション

セグメンテーションの軸

人口統計的変数(デモグラフィック)
  • 年齢:10代、20代、30代、40代、50代以上
  • 性別:男性、女性、その他
  • 職業:会社員、公務員、自営業、学生、主婦
  • 収入:年収300万円未満、300-500万円、500万円以上
  • 家族構成:独身、夫婦のみ、子供あり、高齢者同居
  • 居住地:都市部、郊外、地方
心理的変数(サイコグラフィック)
  • ライフスタイル:アクティブ、インドア、健康志向
  • 価値観:品質重視、価格重視、ブランド重視
  • 興味・関心:趣味、娯楽、学習分野
  • 性格特性:保守的、革新的、社交的、内向的
行動変数(ビヘイビア)
  • 購買行動:頻繁購入、まとめ買い、計画的、衝動的
  • 利用頻度:ヘビーユーザー、ライトユーザー
  • ロイヤルティ:ブランド忠実、比較検討、スイッチャー
  • 購買時期:早期採用者、フォロワー、遅延採用者

ターゲティング

ターゲティング戦略

集中戦略(ニッチターゲティング)
  • 特徴:特定セグメントに集中
  • メリット:専門性発揮、高い顧客満足
  • デメリット:市場規模の制約、リスク集中
  • 適用:資源が限られた中小企業、専門技術保有
選択的戦略(マルチセグメント)
  • 特徴:複数セグメントを個別対応
  • メリット:リスク分散、成長機会拡大
  • デメリット:コスト増加、複雑な管理
  • 適用:中規模企業、成長期の事業
無差別戦略(マスマーケティング)
  • 特徴:市場全体を単一ターゲット
  • メリット:規模の経済、コスト効率
  • デメリット:競合激化、差別化困難
  • 適用:大企業、コモディティ商品

ペルソナ設定

ペルソナとは

ペルソナとは、商品・サービスのターゲットとなる理想的な顧客像を、実在の人物かのように詳細に設定した架空の人物像です。

ペルソナ設定の効果

  • 共通認識:チーム内でのターゲット像統一
  • 具体的施策:より具体的なマーケティング施策立案
  • 顧客視点:顧客目線での商品・サービス開発
  • 優先順位:機能開発や改善の優先順位明確化
  • コミュニケーション:効果的なメッセージング

ペルソナの作成方法

基本情報の設定

必須項目
カテゴリー 項目 詳細
基本情報 名前・写真 覚えやすい名前、具体的な顔写真
年齢・性別 具体的な年齢、性別
職業・年収 職種、役職、年収レンジ
家族構成 配偶者、子供、同居家族
ライフスタイル 居住地 都道府県、住環境
趣味・興味 休日の過ごし方、趣味
情報収集 利用メディア、情報源
心理・行動 価値観 大切にしていること
悩み・課題 抱えている問題
購買行動 購入時の意思決定プロセス

ペルソナ設定例(カフェ開業の場合)

メインペルソナ:佐藤美咲さん(29歳)
基本情報
  • 職業:IT企業の営業事務(正社員)
  • 年収:400万円
  • 家族構成:独身、一人暮らし
  • 居住地:東京都渋谷区のマンション
ライフスタイル
  • 平日:9:00-18:00勤務、残業は月10時間程度
  • 休日:友人とランチ、ショッピング、カフェ巡り
  • 趣味:Instagram投稿、読書、ヨガ
  • 情報収集:Instagram、Twitter、グルメサイト
価値観・行動
  • 価値観:品質重視、体験重視、SNS映え
  • 悩み:仕事のストレス、将来への不安
  • カフェ利用:週3回、友人との会話、作業場所として
  • 予算:1回あたり1,000-2,000円

市場規模の推定

TAM・SAM・SOM分析

市場規模の階層

TAM(Total Addressable Market)
  • 定義:理論上の最大市場規模
  • 対象:商品・サービスが対象とする全市場
  • 用途:事業機会の全体把握
  • 計算例:日本の全カフェ市場規模
SAM(Serviceable Addressable Market)
  • 定義:実際にアプローチ可能な市場規模
  • 対象:地理的・技術的制約を考慮した市場
  • 用途:現実的な市場機会の評価
  • 計算例:首都圏のスペシャルティコーヒー市場
SOM(Serviceable Obtainable Market)
  • 定義:実際に獲得可能な市場規模
  • 対象:競合状況を考慮した獲得可能市場
  • 用途:事業計画・売上予測
  • 計算例:自社が獲得できる市場シェア

市場規模推定の手法

トップダウン・アプローチ

手順
  1. 全体市場の把握:業界統計・調査レポート活用
  2. セグメント分割:地域・年齢・所得等で細分化
  3. ターゲット市場抽出:自社ターゲットに該当する市場
  4. シェア想定:獲得可能なシェア率を推定
計算例(カフェの場合)
  • 日本の外食市場:25兆円
  • カフェ・喫茶店市場:1.2兆円(4.8%)
  • 首都圏カフェ市場:3,600億円(30%)
  • ターゲット層(20-30代女性):1,080億円(30%)
  • 獲得可能市場(シェア0.001%):108万円

ボトムアップ・アプローチ

手順
  1. ターゲット顧客数:商圏内のターゲット人数
  2. 利用頻度:1人あたりの利用回数
  3. 客単価:1回あたりの購入金額
  4. 市場規模算出:顧客数×利用頻度×客単価
計算例(カフェの場合)
  • 商圏内ターゲット人数:5,000人
  • 月平均利用回数:2回
  • 平均客単価:1,500円
  • 月間市場規模:5,000人×2回×1,500円 = 1,500万円
  • 年間市場規模:1,500万円×12ヶ月 = 1.8億円

調査結果の活用

データ分析と洞察抽出

定量データの分析

基本統計量
  • 平均値:データの中心傾向
  • 中央値:データの真ん中の値
  • 最頻値:最も頻度の高い値
  • 標準偏差:データのばらつき
クロス集計分析
  • 年齢×購買頻度の関係
  • 性別×ブランド選好の関係
  • 収入×価格感度の関係
  • 地域×利用チャネルの関係

定性データの分析

テキストマイニング
  • 頻出単語:よく使われるキーワード
  • 感情分析:ポジティブ・ネガティブ感情
  • 共起分析:同時に出現する単語の関係
  • カテゴリー分類:意見の分類・整理
インサイト発見
  • 顧客の真のニーズ・欲求
  • 購買行動の背景にある動機
  • 未充足ニーズの発見
  • 競合との差別化ポイント

マーケティング戦略への反映

4P戦略への活用

Product(商品・サービス)
  • 顧客ニーズに基づく機能設計
  • 競合分析による差別化要素
  • ペルソナに適したサービスレベル
  • 市場トレンドを反映した商品開発
Price(価格)
  • 競合価格との比較検討
  • ターゲットの価格感度
  • 価値に基づく価格設定
  • 価格帯別の売上予測
Place(販売チャネル)
  • ターゲットの利用チャネル
  • 競合の販売戦略分析
  • 地域特性を考慮した立地選定
  • オンライン・オフラインの最適配分
Promotion(販売促進)
  • ターゲットの情報収集行動
  • 効果的なメッセージング
  • 最適なプロモーション手法
  • 競合との差別化コミュニケーション

市場調査・ターゲット設定チェックリスト

市場調査

  • 調査目的の明確化
  • 調査手法の選定(一次・二次調査)
  • 競合他社の特定・分析
  • 市場規模の推定(TAM・SAM・SOM)
  • 顧客ニーズ・課題の把握

ターゲット設定

  • セグメンテーション軸の設定
  • ターゲットセグメントの選定
  • ペルソナの詳細設定
  • ターゲット市場の魅力度評価
  • 競合状況の確認

戦略への反映

  • 商品・サービス設計への反映
  • 価格戦略の策定
  • 販売チャネル戦略の決定
  • プロモーション戦略の立案
  • 定期的な見直し計画の策定