従業員を雇用する際には、様々な法的手続きと継続的な労務管理が必要になります。適切な手続きを怠ると、法的トラブルや従業員との信頼関係に影響する可能性があります。本記事では、雇用開始時に必要な手続きから日常的な労務管理まで、初心者でも理解できるよう詳しく解説します。
雇用開始時の必須手続き
入社前
雇用契約書の作成
労働条件(賃金、労働時間、休日等)を明記した雇用契約書を作成し、双方で署名します。
入社日
労働条件通知書の交付
法律で義務付けられている労働条件通知書を従業員に交付します。
5日以内
健康保険・厚生年金保険の加入
年金事務所に被保険者資格取得届を提出します。
10日以内
雇用保険の加入
ハローワークに雇用保険被保険者資格取得届を提出します。
社会保険の種類と加入条件
健康保険
加入条件:週20時間以上勤務
保険料率:約10%(労使折半)
手続き先:年金事務所
給付内容:医療費の7割給付、傷病手当金等
厚生年金保険
加入条件:週20時間以上勤務
保険料率:18.3%(労使折半)
手続き先:年金事務所
給付内容:老齢年金、障害年金、遺族年金
雇用保険
加入条件:31日以上雇用見込み、週20時間以上
保険料率:0.9%(会社負担0.6%、個人負担0.3%)
手続き先:ハローワーク
給付内容:失業給付、育児休業給付等
労災保険
加入条件:全従業員(パート・アルバイト含む)
保険料率:業種により異なる(全額会社負担)
手続き先:労働基準監督署
給付内容:業務災害・通勤災害の補償
雇用契約書に記載すべき項目
📋 必須記載事項
- 労働契約の期間(有期・無期の別)
- 就業の場所及び従事すべき業務
- 始業・終業時刻、休憩時間、休日
- 賃金の決定・計算・支払い方法・時期
- 退職に関する事項(解雇事由を含む)
⭐ 重要記載事項
- 昇給に関する事項
- 賞与に関する事項
- 退職手当に関する事項
- 安全衛生に関する事項
- 職業訓練に関する事項
- 災害補償・業務外の傷病扶助
- 表彰・制裁に関する事項
- 休職に関する事項
給与計算の基本
月給25万円の従業員の給与計算例
項目 | 金額 | 説明 |
---|---|---|
基本給 | 250,000円 | 契約で定めた基本的な賃金 |
諸手当 | 30,000円 | 通勤手当、役職手当等 |
総支給額 | 280,000円 | 税金・保険料控除前の金額 |
健康保険料 | -13,860円 | 標準報酬月額×9.9%÷2 |
厚生年金保険料 | -25,620円 | 標準報酬月額×18.3%÷2 |
雇用保険料 | -840円 | 総支給額×0.3% |
所得税 | -6,770円 | 源泉徴収税額表により算定 |
住民税 | -15,000円 | 前年所得に基づき市区町村が決定 |
手取り額 | 217,910円 | 実際に支払われる金額 |
労務管理の重要ポイント
⏰ 労働時間管理
- 法定労働時間は1日8時間、週40時間
- 時間外労働には36協定の締結が必要
- 残業代は通常賃金の25%以上の割増賃金
- 勤怠記録の適切な管理と保存(3年間)
📝 就業規則の作成
- 常時10人以上雇用する場合は作成義務
- 労働基準監督署への届出が必要
- 従業員への周知義務
- 労働者代表の意見書添付
📊 帳簿の作成・保存
- 労働者名簿(3年間保存)
- 賃金台帳(3年間保存)
- 出勤簿(3年間保存)
- 雇用契約書・労働条件通知書
🏥 安全衛生管理
- 健康診断の実施(年1回以上)
- 安全衛生教育の実施
- 労働災害防止対策
- ストレスチェックの実施(50人以上)
退職時の手続き
📋 退職届の受理
従業員からの退職届を受理し、退職日を確定します。
💰 最終給与の計算
最終月の給与、有給休暇の買取、退職金等を計算します。
📄 離職票の発行
ハローワークで離職票を発行し、退職者に交付します。
🔄 社会保険の手続き
健康保険・厚生年金・雇用保険の資格喪失手続きを行います。
労務管理システムの活用
💻 クラウド型勤怠管理システムのメリット
- 自動計算:労働時間や残業代の自動計算
- 法令対応:労働基準法等の法改正に自動対応
- 効率化:手作業による計算ミスの削減
- 記録保存:法定保存期間に対応したデータ管理
- 給与ソフト連携:給与計算ソフトとの連携
まとめ
従業員雇用時の手続きと労務管理は複雑ですが、法的義務を適切に履行することで、従業員との信頼関係を築き、事業の安定成長につながります。不明な点は社会保険労務士等の専門家に相談し、適切な労務管理体制を構築しましょう。