合同会社(LLC)設立の手順

合同会社は定款認証が不要で、株式会社より設立費用を抑えることができます。経営の自由度も高く、小規模事業に適した法人形態です。設立手順を詳しく解説します。

合同会社とは

合同会社(LLC:Limited Liability Company)は、2006年の会社法改正で新設された法人形態です。

合同会社の特徴

合同会社の基本的な特徴

  • 有限責任:出資者の責任は出資額に限定
  • 経営の自由度:柔軟な経営体制・利益配分が可能
  • 設立費用が安い:定款認証不要で約10万円で設立
  • 税制優遇:法人税の軽減税率や繰越欠損金制度
  • 社会的信用:個人事業主より高い信用力
  • 決算公告不要:官報への決算公告が不要

株式会社との主な違い

合同会社 vs 株式会社の比較

合同会社
  • 設立費用:約10万円
  • 定款認証:不要
  • 決算公告:不要
  • 出資者:社員(無限責任社員なし)
  • 経営者:代表社員
  • 利益配分:自由に決定可能
  • 資金調達:比較的困難
株式会社
  • 設立費用:約25万円
  • 定款認証:必要
  • 決算公告:必要
  • 出資者:株主
  • 経営者:代表取締役
  • 利益配分:出資比率に比例
  • 資金調達:比較的容易

合同会社設立の流れ

合同会社設立の基本的な流れを説明します。

設立手続きの5つのステップ

合同会社設立の流れ

  1. 基本事項の決定(商号、事業目的、資本金など)
  2. 定款の作成(認証不要)
  3. 資本金の払込(代表社員の個人口座)
  4. 設立登記申請(法務局での登記手続き)
  5. 設立後の各種届出(税務署、年金事務所等)

ステップ1:基本事項の決定

合同会社設立前に決定すべき基本的な事項を整理します。

決定が必要な基本事項

合同会社設立の基本項目

  • 商号(会社名):「合同会社○○」または「○○合同会社」
  • 事業目的:具体的かつ明確な事業内容
  • 本店所在地:会社の住所(自宅でも可)
  • 資本金の額:1円以上(通常100万円~500万円)
  • 社員(出資者):1名以上の出資者
  • 代表社員:会社の代表者(1名以上)
  • 事業年度:決算期(1年以内の期間)
  • 利益配分方法:出資比率とは独立して決定可能

商号決定の注意点

合同会社の商号ルール

  • 必須文字:「合同会社」の文字を必ず含む
  • 略称使用:「LLC」の略称も使用可能
  • 同一住所制限:同じ住所で同じ商号は使用不可
  • 使用可能文字:漢字、ひらがな、カタカナ、ローマ字、数字
  • 記号の使用:「&」「'」「,」「-」「.」「・」のみ使用可
  • 商標確認:他人の商標権を侵害しないよう確認

社員と代表社員の決定

合同会社の出資者・経営者

  • 社員:合同会社への出資者(有限責任)
  • 代表社員:会社を代表して業務を執行する社員
  • 業務執行社員:日常業務を行う社員
  • 兼任可能:1人で社員・代表社員・業務執行社員を兼任可能
  • 法人社員:法人も社員になることが可能

ステップ2:定款の作成

合同会社の定款は認証不要で、自分で作成することができます。

定款の記載事項

定款に記載する内容

  • 絶対的記載事項:必ず記載が必要
    • 商号(会社名)
    • 事業目的
    • 本店所在地
    • 社員の氏名・住所
    • 社員の責任(有限責任)
    • 社員の出資額・価額
  • 相対的記載事項:定めれば効力を持つ
    • 業務執行社員の定め
    • 代表社員の定め
    • 利益配分の方法
    • 社員の退社・除名に関する定め
  • 任意的記載事項:任意で記載
    • 事業年度
    • 公告の方法

定款作成のポイント

合同会社定款の特徴

  • 認証不要:公証役場での認証手続きが不要
  • 印紙税:4万円の印紙税が必要(電子定款除く)
  • 柔軟性:株式会社より自由度の高い定款作成が可能
  • 利益配分:出資比率と異なる利益配分も設定可能
  • 意思決定:社員全員の同意で重要事項を決定

電子定款の活用

電子定款のメリット

  • 印紙税節約:4万円の印紙税が不要
  • 作成方法:PDF形式で作成し電子署名
  • 必要なもの:Adobe Acrobat、電子証明書
  • 保管方法:電子データとして保管
  • 専門家依頼:司法書士等に依頼することも可能

ステップ3:資本金の払込

定款作成後、代表社員の個人口座に資本金を払い込みます。

払込手続きの流れ

資本金払込の方法

  1. 払込口座の準備
    • 代表社員の個人口座を使用
    • 専用口座の新規開設も可能
  2. 資本金の払込
    • 定款作成日以降に払込
    • 各社員から出資額を入金
    • 通帳に記録が残るよう入金
  3. 払込証明書の作成
    • 払込があったことを証明
    • 代表社員が作成・押印
    • 通帳のコピーを添付

払込証明書の内容

証明書に記載する事項

  • 払込総額:資本金の総額
  • 払込日:実際の払込日
  • 社員別出資額:各社員の出資額
  • 通帳コピー:表紙、1ページ目、入金記録
  • 代表社員の署名・押印:実印を使用

ステップ4:設立登記申請

法務局で合同会社設立の登記申請を行います。

登記申請に必要な書類

設立登記申請書類一覧

  • 設立登記申請書:合同会社設立登記の申請書
  • 定款:作成した定款
  • 払込証明書:資本金払込の証明書類
  • 代表社員就任承諾書:代表社員の就任承諾
  • 印鑑登録証明書:代表社員の印鑑登録証明書
  • 印鑑届出書:会社実印の届出
  • 登録免許税:資本金の0.7%(最低6万円)

登記申請の手順

法務局での登記手続き

  1. 管轄法務局の確認
    • 本店所在地を管轄する法務局
    • 商業・法人登記部門
  2. 書類の提出
    • 窓口提出または郵送
    • 登録免許税の納付
    • 受理番号の確認
  3. 登記完了の確認
    • 申請から約1週間で完了
    • 登記事項証明書の取得
    • 印鑑登録証明書の取得

登録免許税の計算

合同会社設立の登録免許税

  • 計算方法:資本金の額 × 0.7%
  • 最低額:6万円
  • 例:資本金100万円の場合
    • 100万円 × 0.7% = 7,000円
    • 最低額6万円が適用される
  • 例:資本金1000万円の場合
    • 1000万円 × 0.7% = 7万円
    • 実際の税額は7万円

ステップ5:設立後の各種届出

合同会社設立後に必要な各種届出を行います。

税務署への届出

税務関係の届出書類

  • 法人設立届出書:会社設立の届出(2ヶ月以内)
  • 青色申告承認申請書:青色申告の申請(3ヶ月以内)
  • 給与支払事務所開設届出書:給与支払いを行う場合
  • 源泉所得税納期特例申請書:源泉税の年2回納付
  • 消費税課税事業者選択届出書:必要に応じて

都道府県・市区町村への届出

地方税関係の届出

  • 法人設立届出書:都道府県税事務所
  • 法人設立届出書:市区町村役場
  • 提出期限:設立から15日以内(自治体により異なる)
  • 添付書類:定款の写し、登記事項証明書

社会保険・労働保険の手続き

保険関係の届出

  • 健康保険・厚生年金保険:年金事務所(強制適用)
  • 労災保険:労働基準監督署(従業員雇用時)
  • 雇用保険:ハローワーク(従業員雇用時)
  • 提出期限:各々異なるため確認が必要

合同会社設立の費用

合同会社設立にかかる費用を詳しく説明します。

法定費用

必須の設立費用

  • 定款印紙税:4万円(電子定款の場合は不要)
  • 登録免許税:6万円~(資本金の0.7%)
  • 登記事項証明書:600円/通
  • 印鑑登録証明書:450円/通
  • 合計:約10万円~(電子定款の場合は約6万円~)

その他の費用

追加でかかる可能性のある費用

  • 印鑑作成費:1~3万円
  • 専門家報酬:5~20万円(司法書士等に依頼の場合)
  • 資本金:1円~(事業に必要な額)
  • 交通費・通信費:数千円

株式会社との費用比較

設立費用の比較

合同会社
  • 定款認証手数料:不要
  • 定款印紙税:4万円
  • 登録免許税:6万円~
  • 合計:約10万円~
株式会社
  • 定款認証手数料:5万円
  • 定款印紙税:4万円
  • 登録免許税:15万円~
  • 合計:約25万円~

合同会社のメリット・デメリット

合同会社を選択する際の判断材料を整理します。

合同会社のメリット

合同会社を選ぶ利点

  • 設立費用が安い:株式会社の半分以下の費用
  • 経営の自由度:柔軟な経営体制・利益配分
  • 意思決定の迅速性:少数による迅速な意思決定
  • 決算公告不要:官報掲載義務なし
  • 役員任期なし:取締役の任期制限なし
  • 税制上の優遇:法人税の軽減税率適用

合同会社のデメリット

合同会社の制約・課題

  • 認知度の低さ:株式会社に比べて認知度が低い
  • 資金調達の困難:株式発行による資金調達不可
  • IPOの制約:株式上場はできない
  • 信用力:株式会社より信用力が劣る場合
  • 人材確保:優秀な人材確保が困難な場合
  • 意思決定の複雑化:社員数増加時の意思決定

合同会社が適している事業

どのような事業に合同会社が適しているかを説明します。

合同会社に適した事業タイプ

おすすめの事業形態

  • 小規模事業:少人数での事業運営
  • コンサルティング業:個人の専門性を活かす事業
  • IT・Web関連:システム開発、Webサービス
  • クリエイティブ業:デザイン、映像制作等
  • 不動産投資:不動産の取得・運用事業
  • 飲食店:小規模な飲食店経営
  • ファミリービジネス:家族経営の事業

株式会社を検討すべきケース

株式会社が適している場合

  • 大規模な資金調達:投資家からの出資を予定
  • 将来のIPO:株式上場を目指す
  • 対外的信用重視:大企業との取引が中心
  • 優秀な人材確保:ストックオプション等の活用
  • 複雑な株主構成:多数の出資者による事業

設立後の運営ポイント

合同会社設立後の運営で注意すべき点を説明します。

日常の運営事項

継続的な業務

  • 帳簿の作成・保管:適正な会計帳簿の作成
  • 税務申告:法人税・消費税等の申告
  • 社会保険手続き:従業員の加入・脱退手続き
  • 登記事項の変更:変更があった場合の登記
  • 契約書の管理:重要な契約書の適切な管理

組織変更の可能性

将来的な組織再編

  • 株式会社への組織変更:事業拡大時の選択肢
  • 合併・分割:他社との統合・事業分離
  • 解散・清算:事業終了時の手続き
  • 社員の追加・脱退:メンバー変更時の手続き

よくある質問と注意点

合同会社設立でよくある質問と注意点を説明します。

よくある質問

Q&A

  • Q:1人でも合同会社を設立できる?
    A:可能。社員1名から設立できる
  • Q:資本金はいくらにすれば良い?
    A:1円から可能だが、事業に必要な資金を目安に
  • Q:後から株式会社に変更できる?
    A:可能。組織変更の手続きで変更できる
  • Q:利益配分は自由に決められる?
    A:出資比率と異なる配分も可能

注意すべきポイント

設立・運営の注意点

  • 定款の重要性:合同会社では定款の内容が特に重要
  • 社員間の合意:重要事項は社員全員の同意が必要
  • 利益配分の明確化:事前に配分方法を明確にする
  • 退社規定:社員の退社に関する規定を定める
  • 業務分担:各社員の役割・責任を明確化

まとめ

合同会社は設立費用を抑えつつ、経営の自由度を重視する事業に適した法人形態です。事業の性質と将来の展望を考慮して選択しましょう。

合同会社設立のポイント

  • 費用を抑えた法人設立
  • 定款認証不要で手続き簡素
  • 経営の自由度が高い
  • 利益配分の柔軟性
  • 小規模事業に最適

設立後の重要事項

  • 適切な会計処理
  • 継続的な税務申告
  • 社員間の合意形成
  • 事業の成長と発展
  • 将来の組織変更検討

合同会社は株式会社より手軽に設立でき、小規模事業や家族経営に適しています。事業の成長に応じて株式会社への組織変更も可能です。

次のステップ:商号・屋号の決め方で、事業名の決定方法について学びましょう。