定款の作成と認証
定款は会社の基本ルールを定めた最重要書類です。株式会社設立では公証人による認証が必要で、作成から認証まで正しい手順を踏むことが重要です。
定款とは何か
定款の定義
定款は、会社の組織・活動・運営に関する基本的な事項を定めた根本規則で、「会社の憲法」とも呼ばれます。
法的重要性
- 会社法による作成義務
- 公証人認証が必要
- 会社設立の絶対条件
- 株主・取締役の権利義務の基準
実務的重要性
- 会社運営の基本ルール
- 株主総会の運営方法
- 利益配分の決定方法
- 事業目的の範囲設定
定款記載事項の分類
絶対的記載事項
必ず記載しなければならない事項。記載がないと定款が無効になります。
相対的記載事項
記載しなくても定款は有効だが、記載しないとその効力が生じない事項。
任意的記載事項
記載してもしなくても良いが、明文化することで明確になる事項。
絶対的記載事項
会社法第27条で定められた必須記載事項を詳しく解説します。
1. 目的
記載内容
会社が行う事業の内容を具体的に記載します。
記載のポイント
- 具体性:「○○業」ではなく「○○の製造・販売」など具体的に
- 適法性:法令に違反する事業は記載不可
- 営利性:営利を目的とする事業であることが必要
- 明確性:第三者が理解できる明確な表現
記載例
- Webサイトの企画、制作、運営及び管理
- インターネットを利用した各種情報提供サービス
- コンピュータシステムの設計、開発及び販売
- 経営コンサルティング業務
- 前各号に附帯関連する一切の業務
2. 商号
記載内容
会社の正式名称を記載します。
記載のポイント
- 「株式会社」または「㈱」を前後いずれかに付ける
- 使用可能文字の確認(漢字、ひらがな、カタカナ、ローマ字、数字、一部符号)
- 同一住所での同一商号は不可
- 銀行、信託、保険など特定の文字は許可が必要
記載例
- 株式会社○○○
- ○○○株式会社
- 株式会社ABC
3. 本店の所在地
記載内容
会社の本店がある場所を記載します。
記載のポイント
- 最小行政区画:市区町村まで記載すれば可
- 詳細住所:番地まで記載することも可能
- 移転考慮:市区町村のみ記載すると移転時の定款変更不要
- 賃貸の場合:法人利用の許可確認が必要
記載例
- 東京都渋谷区(最小行政区画での記載)
- 東京都渋谷区恵比寿一丁目1番1号(詳細住所での記載)
4. 設立に際して出資される財産の価額又はその最低額
記載内容
設立時の資本金額を記載します。
記載のポイント
- 最低1円から設立可能
- 金銭以外の現物出資も可能
- 信用度を考慮した適正な金額設定
- 消費税免税要件(1,000万円未満)を考慮
記載例
金100万円
5. 発起人の氏名又は名称及び住所
記載内容
設立時の出資者(発起人)の情報を記載します。
記載のポイント
- 個人の場合:氏名と住所(住民票記載のとおり)
- 法人の場合:名称と住所(登記簿記載のとおり)
- 外国人の場合:在留カード等の記載に従う
- 複数発起人の場合:全員の情報が必要
記載例
東京都渋谷区恵比寿一丁目1番1号 山田太郎
6. 発行可能株式総数
記載内容
会社が将来発行できる株式の最大数を記載します。
記載のポイント
- 設立時発行株式数の4倍以内(公開会社の場合)
- 将来の増資を考慮した数を設定
- 後から変更可能だが株主総会決議が必要
- 過度に多い数は設定しない
記載例
1,000株
相対的・任意的記載事項
相対的記載事項(主要なもの)
株式の譲渡制限
株式の譲渡について取締役会(株主総会)の承認を必要とする規定
取締役・監査役の任期短縮
法定任期(取締役2年、監査役4年)より短い任期の設定
株主総会招集期間の短縮
株主総会の招集通知期間を法定期間(2週間前)より短縮
取締役会の設置
取締役会を設置する場合の規定
任意的記載事項(例)
公告の方法
決算公告等の公告方法を規定
- 官報に掲載(費用:約6万円)
- 日刊新聞への掲載(費用:約70万円)
- 電子公告(自社Webサイト、費用:約5万円)
事業年度
会社の会計期間を規定
- 1年以内で自由に設定可能
- 税務上の繁忙期を避ける
- 業界の慣行を考慮
株主名簿管理人
株主名簿の管理を信託銀行等に委託する場合の規定
株券の発行
株券を発行するかどうかの規定(通常は発行しない)
中小企業によく採用される規定
- 株式譲渡制限:ほぼ必須(株式の流出防止)
- 取締役任期短縮:1年に短縮(任期満了登記費用削減)
- 株主総会招集期間短縮:1週間に短縮(迅速な意思決定)
- 電子公告:決算公告費用の削減
定款作成の手順
事前準備
- 商号の最終決定
- 事業目的の具体化
- 本店所在地の確定
- 資本金額の決定
- 発起人情報の収集
ひな形の選択
- 法務省のひな形を活用
- 専門書のサンプルを参考
- 行政書士・司法書士のテンプレート
- 会社設立サービスの利用
定款の作成
- 絶対的記載事項の記入
- 相対的記載事項の検討・記入
- 任意的記載事項の検討・記入
- 全体の整合性確認
最終確認
- 記載内容の正確性確認
- 法的要件の充足確認
- 誤字脱字のチェック
- 専門家によるレビュー
作成時のポイント
明確な表現
曖昧な表現は避け、明確で具体的な文言を使用
将来性の考慮
事業拡大や組織変更を想定した柔軟な規定
業界慣行の確認
同業他社や業界の一般的な定款規定を参考
専門家の活用
複雑な規定は専門家に相談して作成
公証人認証の手続き
認証手続きの流れ
ステップ1:公証役場の選択
- 本店所在地の都道府県内の公証役場
- 事前予約が必要(電話で予約)
- 定款案の事前確認依頼(推奨)
ステップ2:必要書類の準備
定款
3通(原本、会社保存用、登記用)
発起人全員の印鑑証明書
取得から3ヶ月以内のもの
発起人全員の実印
印鑑証明書と同じもの
委任状
代理人が手続きする場合
ステップ3:公証役場での認証
- 発起人本人の出頭(代理可)
- 定款の内容確認
- 公証人による質問への回答
- 認証手数料の支払い
- 認証済み定款の受取
認証費用
項目 | 金額 | 備考 |
---|---|---|
認証手数料 | 50,000円 | 公証人への支払い |
定款謄本手数料 | 約2,000円 | ページ数×250円 |
印紙税 | 40,000円 | 電子定款は不要 |
合計 | 約92,000円 | 紙の定款の場合 |
認証手続きのコツ
- 事前相談:定款案を事前にFAXやメールで確認依頼
- 予約確実化:公証役場は非常に混雑するため早めの予約
- 書類完備:不備があると再度出頭が必要
- 時間余裕:手続きには1〜2時間程度を要する
電子定款のメリット
電子定款とは
紙ではなく電子ファイル(PDF)形式で作成し、電子署名を付した定款です。
印紙税4万円が不要
最大のメリットは印紙税40,000円が不要になることです。
紛失リスクの軽減
電子データとして保存されるため物理的な紛失がありません。
修正が容易
認証前の修正がデジタルで簡単に行えます。
保存・管理の簡便性
デジタルファイルとして長期保存・管理が容易です。
電子定款作成の要件
専用ソフトウェア
- Adobe Acrobat(電子署名機能付き)
- 法務省認定の電子署名ソフト
- 公的個人認証サービス対応ソフト
電子証明書
- 公的個人認証サービス(マイナンバーカード)
- 商業登記電子証明書
- 認定認証業者の電子証明書
技術的知識
- PDF作成・編集技術
- 電子署名の付与方法
- 公証役場への電子データ送信
専門家への依頼
電子定款の作成は技術的難易度が高いため、多くの場合は専門家に依頼します。
行政書士に依頼
- 定款作成から認証まで一括代行
- 費用:5〜10万円程度
- 印紙税4万円の節約で実質的にはお得
- 専門知識による適切な定款作成
司法書士に依頼
- 設立登記まで一括依頼可能
- 費用:10〜20万円程度
- ワンストップサービス
- 設立後のフォローも期待できる
オンライン設立サービス
- 格安での電子定款認証代行
- 費用:1〜3万円程度
- 定款作成は自分で行う
- 認証手続きのみ代行
費用と節約方法
定款認証費用の比較
項目 | 紙の定款 | 電子定款(自作) | 電子定款(専門家依頼) |
---|---|---|---|
認証手数料 | 50,000円 | 50,000円 | 50,000円 |
印紙税 | 40,000円 | 0円 | 0円 |
定款謄本手数料 | 約2,000円 | 約2,000円 | 約2,000円 |
専門家報酬 | 0円 | 0円 | 30,000〜50,000円 |
ソフト・証明書費用 | 0円 | 20,000〜30,000円 | 0円 |
合計 | 約92,000円 | 約72,000円 | 約82,000円 |
費用節約の戦略
よくあるミス
記載内容のミス
事業目的の不備
- 抽象的すぎる表現
- 適法性に疑問のある内容
- 許認可事業の記載漏れ
本店所在地の記載ミス
- 住民票と異なる住所表記
- 建物名の記載有無の不統一
- 郵便番号の間違い
手続き上のミス
印鑑証明書の期限切れ
- 取得から3ヶ月を超過
- 認証日に期限が切れる
発起人の署名・押印ミス
- 印鑑証明書と異なる印鑑
- 署名の不一致
- 押印漏れ
法的要件のミス
絶対的記載事項の不備
- 必須事項の記載漏れ
- 記載内容の不正確性
相対的記載事項の矛盾
- 株式譲渡制限の不整合
- 機関設計の矛盾
ミス防止のポイント
- チェックリスト活用:必要事項の確認リストを作成
- 複数人確認:複数の目でダブルチェック
- 専門家相談:不明な点は専門家に確認
- 事前確認:公証役場での事前確認を活用
- 余裕をもったスケジュール:修正時間を考慮した計画
定款作成の次のステップ
定款認証が完了したら、資本金の払い込みと設立登記申請に進みます。